闇サイト殺人事件(愛知女性拉致殺害事件)

闇サイト殺人事件（やみサイトさつじんじけん）とは、2007年（平成19年）8月24日に愛知県名古屋市内で発生した強盗殺人事件。闇サイトが犯行グループ結成に利用されたことが注目された。愛知女性拉致殺害事件ともよばれる。 9月25日午前9時、名古屋地方裁判所。ある裁判の傍聴券を求め、約400人が列をつくった。午前9時26分。被告を乗せた車が名古屋地裁に入っていった。法廷の場で顔を合わせた3人の男たち。いったい、何を語るのか…磯谷利恵さん（当時31）。何の落ち度もない命が、面識のない3人によって奪われた。利恵さんの母・磯谷

富美子さんは、「一番大切なものを奪われてしまった。代われるものなら代わってあげたい…」と、声を震わせた。逮捕、起訴されたのは、携帯電話の「闇サイト」で知り合い、面識もなく、本名も知らない3人の男たちだった。

川岸健治被告「おおむね認めますが、殺害方法の順番は争います」

堀慶末被告「おおむね認めます。ただ被害者に手錠をかけた事実は違います」

神田司被告「私の記憶違いを主張する共犯者たちに対しては争うつもりです」

初公判で、3人は、昨年8月、帰宅途中の磯谷利恵さんを名古屋市千種区の路上で拉致した上、ハンマーで殴るなどして殺害し、遺体を棄てたことなどを大筋で認めた。

3人の被告は時折、互いの顔を見ながら着席した。

冒頭陳述で検察側は、3人の凶悪な犯行の詳細を明らかにした。

「拉致した後、車外から被害者の姿を目撃されないようにシャツやタオルを被害者の体にかけ、シートの下に寝かせて監禁した」

これは事件後、「リアルタイム」が川岸被告と交わした手紙。

『闇サイト殺人事件の真実』と題された手紙は16通にも及び、その中には犯行のすべてがつづられていた。

「彼女の太ももぐらいに包丁をあて、神田が『このお兄さん、キレると刺すよ。この包丁、100円ショップで買ってきたやつだから切れ味悪いよ。5、6回刺さないと死なないかな』と言った。堀が刺すまねをする。被害者は体を震わせた」

裁判ではさらに、川岸被告ら3人が犯行当日までに現金を奪うため、他に6つの犯行計画を練っていたことや、3人が金に困り、「闇サイト」にアクセス、本名すら知らないまま犯行に及んだことが指摘された。

読み上げられる冒頭陳述にも表情を変えることなく聞き入っていた3人だったが、裁判の途中、検察側との意見が食い違う場面があった。

「神田が『誰でもいいから、若い女を見つけてやっちゃいましょう。さらって、最後は殺しちゃうけどいいよね』と提案し、堀と川岸が賛同した」

犯行前、3人で計画した段階で、すでに殺害の意思はあったと主張する検察側。

また、川岸被告も手紙の中で、こう振り返っていた。

「目的は被害者の預金がメイン。『顔を見られたらどうするか？』もちろん殺すと、あっさり決めた。3人ともためらいはなかった」

しかし…

神田被告の弁護人は、「神田は、川岸が被害者を襲うなどしたため、
騒がれるのを防ごうと犯行を決意した」

川岸被告の弁護人は、「川岸は、すでに殺害を実行している2人を見て、やむなく参加した」

掘被告の弁護人は、「堀は、殺害現場で神田に『被害者を素手で絞めます』と言われ、殺害を決意した」と、いずれも殺害に計画性はなく、場当たり的な犯行だったと主張した。

いったい何が真実なのか…法廷で揺れる“イノチ”の価値。

3人の被告とも起訴事実を大筋で認めている今回の裁判では、今後、それぞれが情状酌量を求め、犯行時の3人の役割などが争われる方針だ。

初公判の当日、取材班は、裁判所に向かう富美子さんを取材した。

「いつも通りに寝たんですが、早く目が覚めて。それからは眠れなかった」

娘を失って1年1か月、ようやくこの日を迎えた。

「とてもこの日を待ち望んでいたけど、当日になると、緊張と不安でいっぱい。裁判で事件のあらましを聞くという怖さと、3人の被告を初めて目にするという怖さが…」

逃げ出したくなる恐怖に負けないために、富美子さんがカバンに入れていたのは娘の小さな遺影。

「この子のために頑張らなきゃって」

昨年8月、娘は3人の男たちに突然、命を奪われた。変わり果てたその姿を忘れることができないという。

「顔はむくんでいるし、青アザもいっぱいあるし。ハンマーで殴られた時に傷ついたんでしょうね。顔に何か所か傷がありました」

夫を病気で亡くしてから30年間、2人で過ごしてきた。

言いようのない1年1か月。どのような思いで、日々を過ごしてきたのか…

初公判の3日前、富美子さんのもとを本多キャスターが訪ねた。

「事件からの期間は長かったでしょうか？」

「裁判を待っている期間はとても長かったですね。当初、署名活動をして忙殺されていた時間がありましたので、そういう意味から考えると、早かったかなと」と富美子さん。

「娘を奪った男たちに極刑を」

事件直後から、富美子さんは街頭で署名を呼びかけてきた。

「娘と同じように、そういう状況をつくって執行してほしいという気持ちはありますけれども、それは無理なことですから。だったら、せめて死刑にしてほしい」

集まった署名の数は、約28万。

悲しみの中、懸命に訴える姿に多くの人が共感した。

本多キャスター「この署名を裁判で生かしていきたいと…」

「どんなことがあっても、署名が集まったことは事実ですので。できたら、裁判官の目で見ていただきたい」と富美子さん。

娘を奪った男たちに下されるのは、どんな刑なのか。

9月22日、名古屋地検を訪れた富美子さんに、判決の日が知らされた。

「早く判決の日が来てほしいような、来てほしくないような複雑な気持ちですね。判決が願いどおりじゃないかもしれないと思うと、そういう判決は聞きたくないという気持ちがあります」

そして、初公判の朝、被告との初めての対面に富美子さんが口にした思い。

「この男たちに、利恵がこういう感じで3人の手によって、というのをつい想像してしまいますので。言葉は汚いですけど、“こいつらが娘を殺したんだ”という怒りが…」

午前10時、法廷に現れた3人の被告。

富美子さんは目をそらすことなく、その様子を見つめていた。

しかし…

検察側の冒頭陳述で、「『殺さないで、話を聞いて、お願いします。死にたくない』などと、必死に哀願して助命を求めたが、被告人らはこれに耳を貸すことなく、殺害行為を続けた」

娘が最期に発した言葉が読み上げられた時、富美子さんはうつむき、ハンカチで涙をぬぐった。

判決終了後、富美子さんは会見に臨み、心境を語った。

「人として、絶対許せない。彼らを人とは思いませんが、人の心を持ち合わせていない鬼畜ですので。“殺す”という前提ではないというニュアンスの発言を弁護士がされていたので、私としては納得いかないし、卑怯だなと、本当のことを言ってほしいと思いました」

そして、「求めるのはただ１つ、３人の死刑の判決だけです」と、強く極刑を求めた。【中京テレビ】